セミナー・シンポジウム

HiSORセミナー

時間分解X線測定で見る遷移金属化合物のダイナミクス

日時 2016年11月16日 (水) 13:30~14:30
場所 放射光科学研究センター 2階 セミナー室
講師 和達 大樹
(東京大学物性研究所)

 遷移金属化合物は、高温超伝導、巨大磁気抵抗効果、マルチフェロイック性、 金属絶縁体転移などの興味深い性質のために、多くの興味を集めている系であ る。d軌道やf軌道が部分的に埋まっているこれらの系では、電子が電荷、軌 道、スピンの3つの自由度を持ち、これらが格子の自由度とも結合する。多彩な 性質の背景にはほとんどの場合、電荷/スピン/軌道の秩序現象が起こっており、このような秩序現象の観測が現在の物性物理学の大きなテーマとなっている。本講演では、秩序現象の静的な性質だけでなくその超高速ダイナミクス、特にps程度の領域の現象に焦点を当て、時間分解X線測定による研究例を紹介する。時間構造を持つX線源としては、例えばシンクトロン放射光(SR)があり、数十psの時間幅を持っている。最近登場したX線自由電子レーザー(XFEL)は、時間幅がps以下であり、1パルスの強度がSRよりもはるかに強い。現在我々は、SRとXFELを併用して、物質のダイナミクスの研究を行っている。

 本講演で紹介したいのは、アメリカのXFEL施設LCLSとドイツのSR施設BESSY II を用いて、ポンププローブのセットアップで時間分解X線回折・散乱測定を行っ た結果である。物質を励起するポンプ光はチタンサファイアレーザー(波長: 800 nm)であり、その効果を観測するプローブ光としてXFELかSRを用いている。これまでの研究では硬X線を用いての格子のダイナミクス[1]と軟X線を用いてのスピンのダイナミクス[2]が得られている。本講演ではこれらの結果に加え、東大物性研ビームラインであるSPring-8 BL07LSUにおいて建設を進めている、時間分解軟X線回折・吸収分光システムについても示したい。

[1] P. Beaud, H. Wadati et al., Nat. Mater. 13, 923 (2014).
[2] T. Tsuyama, H. Wadati et al., Phys. Rev. Lett. 116, 256402 (2016).

問合せ先 沢田正博(放射光科学研究センター)