セミナー・シンポジウム

HiSORセミナー

遷移金属ダイカルコゲナイドにおける強相関電子系の物理の研究

日時 2025年11月14日 (金) 15:00-16:00
場所 放射光科学研究所 2階 セミナー室
講師 中島 裕人
(東京理科大学大学院理学研究科)

強相関電子系の物理では多様で興味深い物理現象を示すことが知られている。例えば、銅酸化物高温超伝導は二次元的Mott状態にキャリアドープを施すことで実現する。二次元的Mott状態は、電荷密度波(CDW)状態を示す層状遷移金属カルコゲナイド1T-TaS2や1T-TaSe2においても実現する。近年の走査型トンネル顕微鏡(STM)の研究により、これらの物質では最表面の電子状態が、一層下の層との積層構造および一層下の層の電子状態に依存する可能性が報告されている[1,2]。

1T-TaS2の最表面では、一層下の層との積層構造の違いによって、異なるエネルギーギャップサイズをもつ二種類の絶縁体状態の劈開面が現れることが明らかになっている[1]。それぞれの面の電子状態について、ギャップサイズが大きい面はバンド絶縁体的、ギャップサイズが小さい面はMott絶縁体的である可能性が指摘されている。Mott状態においては、欠陥によってギャップ内に現れる電子状態が高い空間的局在性を示すことが知られている[3]。セミナーでは、この性質を利用し、二種類の絶縁体状態の起源を明らかにするため、各劈開面におけるCDWの位相欠陥近傍のギャップ内電子状態の減衰長をSTM測定によって評価した結果について報告を行う。

1T-TaSe2の最表面では、Mott絶縁体的性質を示す面に加えて、強度の異なるゼロバイアスピーク(ZBP)をもつ二種類の電子状態の面が存在することが明らかになっている[2]。このZBPの起源として、1T-TaSe2のバルク内部が金属状態であることから、最表面の局在電子スピンと一層下の伝導電子スピンとの相互作用による近藤共鳴ピークの可能性が提案されている。積層構造の違いにより層間スピン相互作用の大きさが変化し、その結果としてZBPの強度が変化する可能性が指摘されている。セミナーでは、ZBPの起源を明らかにすることを目的として行ったSTMによる測定結果に加え、角度分解光電子分光(ARPES)の実験計画について報告を行う。

[1] Nat. Commun. 11, 2477 (2020)
[2] Phys. Rev. B 106, 075153 (2022)
[3] Nat. Commun. 4, 1365 (2013)

問合せ先 藤澤唯太、出田真一郎(放射光科学研究所)