研究所長挨拶
放射光科学研究所(HiSOR)の前身である放射光科学研究センターは、学術審議会によるヒアリングを経て、平成8年度(1996年)、真空紫外線・軟X線域での放射光利用研究の推進と人材育成を目的として、国立大学の中に設置された放射光実験施設です。平成14年度(2002年)には「全国共同利用施設」として新設され、平成22年度(2010年)に共同利用・共同研究拠点(放射光物質物理学研究拠点)として認定されました。以後、6年毎の期末評価を受けながら拠点の認定が更新されています。また広島大学(理学分野)のミッションの再定義において「放射光を用いた物性物理学については、卓越した先導的研究の成果を生かし、国内外の研究者との共同研究を一層推進する」とセンターの社会的役割が明記されています。
令和6年度、広島大学の強み・特色をなす重点研究分野(半導体、超物質、創薬、再生医療)との連携を強化して異分野融合研究を推進し、大学における基礎・応用研究を社会に還元するために産学・地域連携を強化し、世界的にも希少な紫外線域の放射光利用研究の国際的拠点としてのハブ機能を強化するため、全学的支援のもとで放射光科学研究所へと改組しました。従来の研究部門は基幹研究部門として統合し、新たに連携研究部門を設置して、幅広い研究分野における放射光の利活用を拡大しながら、世界最高水準の高輝度小型放射光源(HiSOR-II)への高度化を推進していきます。
共同利用・共同研究拠点における大学の枠を超えた研究は、大学の教育研究機能の強化に多大に貢献し、わが国全体の研究力向上につながっています。研究所には、超伝導体やトポロジカル物質など、物性物理学の最先端的学術研究を牽引するうえで不可欠な世界トップレベルの微細電子構造計測技術、高効率スピン計測技術があります。最近は空間分解能を高めたスピン電子状態のイメージング技術を開拓し、デバイスや物質が機能している状態におけるリアルタイム測定に展開しようとしています。また研究所で初めて開発された放射光真空紫外円二色性をもちいた溶液中の生体物質の立体構造解析手法は、世界の放射光実験施設に普及しました。さらに原子レベルで制御しながら磁性薄膜を作製し、原子像や磁気的性質をその場で評価できるユニークなビームラインもあります。真空紫外線・軟X線域の放射光は、物質の性質や機能に関わる電子状態を調べるのに適しており、国境を超え、世界各地から多くの優れた大学院生・研究者がセンターに集い(約4人に1人が海外利用者)、国際共同研究を展開し、査読付成果論文の50%以上が国際共著論文となっています。このようにして創出された研究成果は、Nature、Science、Physical Review Letters 等の著名な学術誌に掲載されています。
放射光計測技術開発から利用研究までを一貫して学んだ学生・大学院生は、卒業後、放射光科学分野はもとより、幅広く社会で活躍しています。これまでにHiSORにおける放射光利用研究により学位取得者が100名(うち海外22名)います。放射光実験施設において学生・大学院生が日常的に研究活動に従事していることは、全く新しいアイデアにもとづく計測装置の開発研究、セレンディピティ―にもとづく優れた研究成果の創出につながるものと考えています。最近、研究所では、海外からのスタッフの採用、ポスドク・留学生の受け入れ、優れた研究者の短期招へい等を通して国際性豊かな教育研究環境がさらに充実しつつあります。学生・大学院生にとっては国内にいながらにして国際共同研究に参加することができます。このような先進的・国際的教育研究環境を活かし、今後とも人材育成に貢献していきたいと思います。
また共同利用・共同研究拠点として定期的に点検・評価を行ないながら、研究者コミュニティーからの意見を反映させることができる開かれた運営体制を整備し、研究者コミュニティーの自主性・自律性に基づいた運営を行い、国内外の研究者とともに共同利用・共同研究を一層推進していきたいと思います。また研究所がこれまでに積み重ねてきた実績をふまえ、研究者コミュニティーからの期待に一層応えるため、そして世界の中でキラリと耀く特色ある放射光科学研究拠点であり続けるため、高輝度小型放射光源の更新を含めた将来計画を着実に前進させていきたいと思います。
今後とも、皆様のご支援とご鞭撻をよろしくお願い申し上げます。
広島大学放射光科学研究所長 島田賢也