成果

O/Cu(110)ストライプ表面の量子閉じこめ効果

はじめに

電子の閉じ込め効果は、基礎科学、技術への応用の両面から非常に注目されている。これは電子のフェルミ波長程度の空間的に十分小さいポテンシャル井戸内に電子を閉じ込めると量子効果が現れ、エネルギー準位が離散的になる現象である。

Cu(110)単結晶表面に酸素を吸着すると、再構成表面Cu(110)(2×1)Oを形成する。酸素吸着量を調整すると、表面[1-10]方向に再構成表面とCu清浄面が交互に配列したストライプ構造を形成する。(図1)この表面では、清浄面で存在する表面電子が閉じ込めの効果を受け、量子井戸状態(QWS)を形成することが期待される。QWSについて系統的な知見を得る際、波数に依存したエネルギーバンド構造を詳細に観測することが不可欠である。そこで我々は角度分解光電子分光(ARPES)を用いて、電子のバンド分散を二次元的にマッピングして、詳細でバンド構造を決定することを目的として研究を行った。

図 1  酸素吸着Cu(110)(2×1)O表面。(a)酸素飽和吸着表面(q=0.5ML)。(b)ストライプ表面(q<0.5ML)。

図 2 角度分解光電子分光の原理。

実験結果・考察

図3にARPESにより得られたCu(110)清浄表面とストライプ表面におけるエネルギー分散関係をストライプに平行な[001]方向とストライプに垂直な[1-10]方向について示す。図3(a)で示すように清浄表面では両方向とも自由電子的な分散関係を示す。一方、図3(b)に示されるストライプ表面では、ストライプに平行な方向ついては自由電子的な分散を示すが、ストライプに垂直な方向ではバンドの底の部分が平らになり強度が集中している。この結果は、ストライプ表面でストライプに垂直な方向のみ、電子が1次元的に量子閉じ込めの効果を受けていることを示している。

図 3

そこでストライプ垂直な方向の分散の、井戸幅依存性を示したのが図4である。井戸幅が50Åのときは準位が3つに離散化するのに対して、井戸幅が34Åのときは、2つの離散化準位が観測された。このように井戸幅に依存して、離散化準位の数が変化することが分かった。

図 4

本研究において我々は高精度で角度分解光電子分光を行い、QWSの波数依存性を直接観測した。その結果、ストライプに垂直な方向についてエネルギーが離散化し、離散化準位の数が井戸幅に依存して変化することを観測した。このようなストライプに垂直な方向で現れる量子閉じこめ効果をより詳細に調べるために、簡単な井戸型ポテンシャルに束縛された離散準位に存在する電子の光電子放出強度の波数依存性を計算した。その結果、図5で示すように、井戸幅の異なる2つの場合について、実験で得られた光電子放出強度の波数依存性を含めて説明することに成功した。

図 5

結論

本研究では、Cu(110)(2x1)Oストライプ表面のバンド構造を高分解能・角度分解光電子分光によって明らかにした。Cu(110)表面のショックレー型表面状態はストライプに垂直な方向で離散的な構造を示した。このような特徴は、基本的には単純な量子井戸モデルを用いて、波数依存性も含めて実験結果を説明することが出来た。