広島大学放射光科学研究センター
English サイトマップ

トップページ
概要
実験設備
成果
■論文リスト
■研究成果解説
■質量ゼロの電子を新たに発見
■世界最高分解能のスピン・角度分解光電子分光装置の開発に成功
■NPG Asia Materials(ネイチャー・パブリッシング・グループ) のハイライト論文に取り上げられました
■超伝導のメカニズム解明に大きな手がかり
■高温銅酸化物超伝導体における面外歪みによる酸素同位体効果の増大について
■希土類フラーレン薄膜の多様な物性解明に向けて
■非磁性Sb(111) 表面の電子が磁性を示す証拠を発見
■高温超伝導体の超伝導の仕組みに関わる検証実験
■高温超伝導体の超伝導の仕組みに関わる検証実験
■古くて新しい電荷密度波というパズルを解く
■酸化物伝導体のナノスケールの現象解明に向けて
■低エネルギー放射光によるノード準粒子状態の解明
■銅酸化物系のCu 1s内殻光電子分光
■強磁性ニッケルの高分解能光電子分光
■カーボンナノチューブの高分解能光電子分光
■高エネルギー励起光電子分光による価数相転移の観測
■単原子積層法によるナノ磁性体の作製と軟X線放射光を利用したその場磁気測定
■0/Cu(110)ストライプ表面の量子閉じこめ効果
■Bi(001)表面のRashbaスピン分裂の直接観測
■共鳴逆光電子分光法での非占有電子状態の観測
■ロジウム表面における含硫黄分子の反応
■中性解離種からプローブする軟X線光化学反応
■表面での選択的な結合切断によるイオン脱離を中間状態を選別して観測
■内殻励起有機分子の選択的結合切断と分子変形
■放射光真空紫外円二色性によるタンパク質の構造解析
■単結晶による電子線偏向の観測に成功
■多層膜単結晶からX線生成
■新聞報道
共同利用
HiSORセミナー
アクセス
出版物
見学
お問い合わせ
 
国立大学附置研究所・センター長会議
広島大学
広島大学大学院理学研究科・理学部
放射光物性研究室
放射光物理研究室

 単結晶による電子線偏向の観測に成功

広島大学、高エネルギー加速器研究機構  

厚さ16ミクロンのシリコン単結晶に微少な角度をつけて150MeV電子線を入射することにより、結晶によって電子線がまげられる効果を観測した。


概要

 広島大学および高エネルギー加速器研究機構のグループは、広島大学産学連携センターの超高速電子周回装置において、シリコン結晶による150MeV電子線の偏向を観測した。通常、荷電粒子線の偏向には電磁石が使われるが、結晶内の規則的に並んだ原子のつくる強い電場を用いると、効率良く粒子線をまげることができる。この方法は、新しい荷電粒子の操作方法として、着目されており、電子線の加速器からの引き出し、コリメーションなどのビームに利用できる可能性がある。今回の実験は、結晶による加速器のビーム操作技術開発の最初のステップとなるものである。


研究の背景及び目的
 シリコンなどの単結晶は、原子が規則正しく並んでおり、ある方向からみるとあたかも、原子が軸状(結晶軸)または面上(結晶面)に並んでいる。それによって、原子のつくるポテンシャルも原子個々の効果が重ね合わさった、軸ポテンシャルや面ポテンシャルを形成する。
 そのため、結晶軸や面に対して小角度で入射した荷電粒子は結晶軸や面の近傍に束縛され、この現象はチャネリングと呼ばれる。またその粒子が軸や面に対してある程度の角度を持っていた場合でも、その角度が結晶のポテンシャルと入射粒子のエネルギーで決まる臨界角より小さければ、結晶軸にそって曲げる。
 通常、加速器のビームを曲げるためには、偏向電磁石によって行われる。結晶周りの電場は、非常に強いため、その偏向力も大きくその効果を、磁場換算すると、数十から数百テスラという、偏向電磁石では作り出すことのできない、強磁場に相当する。したがって結晶を用いると、小型で物質量の少ないビーム偏向装置をつくることができる可能性があり、加速器からのビーム取り出しや、コリメーション等への応用が期待される。
 結晶を用いたビーム操作は、正電荷をもつ陽子に対しては、ロシアのIHEP、スイスのCERN、米国のFermi研究所の加速器で研究されており、陽子線の加速器からの取り出しに応用された例があり、また陽子加速器のビームハロー除去の研究が勢力的に行われている。しかし、電子の用に負電荷を持つ粒子は、結晶内における運動が複雑であり、その基礎および応用に向けた研究はこれからの課題である。


図 1 結晶に束縛された荷電粒子の運動の模式図
結晶軸がわずかに曲がっていても荷電粒子はそれにそって運動する。これを用いると、加速器のビーム曲げることができる。


図 2 シミュレーションによる結晶に入射した電子の運動例
点で表されているのが結晶軸である。条件が整うと左図のように一つの結晶軸の周りに捕捉されるが、少し初期条件を変えると、結晶軸間を"渡り歩く"ような複雑な動きをすることがある。


実験の概要と結果
 実験は、超高速電子周回装置(REFER)の電子線取り出しラインで行った。
 図5は結晶軸とビームの角度を変えながら、下流においたスクリーンによってビームの偏向を観測したものである。図に示すように結晶軸とビームの軸をわずかにずらしたところで、ビームが曲げられている。結晶軸とビームが平行な場合、ビームは曲がらないため、その点を中心に対称な偏向現象が観測されている。ビーム偏向の2つの図は、ビームの角度広がりが異なる二つの場合である。今回実験に用いた電子線の角度広がりはシリコン結晶中でのチャネリング現象の臨界角より大きいためあまり大きな偏向は観測されていない。また、角度広がりを大きくすると、偏向が見えなくなっている。これはこの効果がまた、ビーム角度広がりという測定する方法になることをしめしている。


図 3 REFERの配置図
実験は図左下の聞き出しビームで行った。


図 4 実験のセットアップ
REFER引き出し線からのビームは、80cm下流におかれたシリコン結晶に照射される。シリコン結晶は、遠隔制御可能なステージの上に置かれており、電子線との角度を変化させることができる。チャネリングの影響は、結晶の下流に置かれた蛍光板によって電子線の像の変化をカメラで観測することにより得られる。


図 5 実験の結果
結晶の角度と偏向角。図の(a)は結晶位置でのビームの角度広がりが3.0 mr、(b)は5.2 mrの実験結果を示す。(a)では明らかに結晶の角度を変化とともに偏向角も変化するが、(b)では偏向角はゼロである。


今後の発展
 電子周回装置は広島大学にあるため、実験する上で非常に使い勝手がよいが、ビーム角度広がりが大きい、エネルギーも150MeVと低く、電子の物質中における多重散乱の効果が大きいという短所がある。そこで、高エネルギー加速器研究機構のATFの1.3GeV電子線を用いた実験を計画した。これはATF共同利用実験として採択されており、現在実験準備を行っている。ATFは世界最小のエミッタンスの電子線であり、非常に効率のよいチャネリング効果が期待できる。そのため、ビームの質に左右されず、負電荷粒子のチャネリング現象に関して精密なデータを収集することができると期待される。その結果をもとに、特に国際リニアコライダー(ILC)におけるビームコリメーションシステムの可能性を追求する。


公表論文
S.Strokov, T.Takahashi, I.Endo, M.Iinuma, K. Ueda, H,Kuroiwa, T.Ohnishi, S.Sawada, Electron beam deflection with channeling in a silicion crystal at the REFER electron ring, Nuclear Instruments and Methods in Physics Research, B252, 16-19 (2006)
S.Strokov, V.Biryukov, Yu.Chesnokov, I.Endo, M.Iinuma, H.Kuroiwa,T.Ohnishi, H.Sato, S.Sawada, T.Takahashi, K.Ueda, Steering beam of charged particles using Silicon crystals, Journal of the Physical Society of Japan, 76, (2007)



このページのトップへ 

〒739-0046 広島県東広島市鏡山2-313
2-313 Kagamiyama, Higashi-Hiroshima, 739-0046 JAPAN